信州、安曇野、穂高、ゲストハウス・ノーサイド、スローライフ、スローフード、食の歳時記 6 月


* 6月 百花繚乱


 6月にもなると、M青果の店頭はほとんど地物の野菜で埋め尽くされ、奥さんが「これは地物(地元産という意味)」と、いちいち私達にことわることはなくなる。
 というのも、彼らは私達の希望が、まず地物の美味しい野菜、それが無理ならせめて国産の野菜であることをよくわかっているからだ。昨今M青果も時代の波には抗えず、やむなく外国産の安い野菜を仕入れることもある。しかし、いくら安くても、どこでどのように栽培されたかも判らず、船底で何日も揺られたような野菜は、にんにく、ショウガなど、味・風味とも地元産とは勝負にならない。何より鮮度が悪いことは間違いなく、鮮度が命の野菜に関して、果たしてどれだけ栄養があるかは疑問である。

 だから、私達は日本では採れないレモン・アボカドなどを除いては、少々割高でも地物・国産にこだわる。最近ではレモンも国産が出回る時期があるので、その時期はもちろん国産優先である。M青果はレモン・バナナなどの輸入品に関しても、価格より品質志向なので、スーパーで買うものより格段に品が良い。
 M氏は「顔の見えるお客さんから「あれはまずかった」と言われるのがいちばんつらい」といい、たまたま購入した物に多少問題があれば、(ごくたまにそういうこともある)値段を引いてくれる。

 昔、皆が個人の商店で買い物をしていた頃は、品質と安全性は店主の誇りによって守られてきたのだが、昨今この当たり前ことを、実現するのが難しいとは何とも寂しい限りである。

 さて、食べる楽しみもさることながら、6月、梅雨入り前の安曇野は一年で最も華やかな季節を迎える。最盛期を迎えたつつじの花に、5月の末に開花したミズキ科の花々、初夏を先取り咲き始めたシャクナゲや山野草に、アヤメや菖蒲など、夏へと向かうひときわ明るい日差しを浴びて、まさに百花繚乱の輝きを放つ。お弁当を持ってピクニックをするには格好の季節だが、この時期、蜂には十分注意が必要だ。

 蜂は攻撃されたと思わない限り人を襲うことはない。ただ、驚いて騒ぎ立てると、攻撃されたと勘違いすることがあるので、決してあわてず、できれば長袖の衣類を着る方が安心だ。蜂はこの時期、花から花へせっせと飛び回り、僅かな花の蜜を集めているのだが、そのおかげで、私達は美味しい蜂蜜を手に入れることができる。

 アカシア・れんげといった蜜が代表的だが、最近は「蕎麦」の花の蜜もある。蜂蜜店に「味はどう?」と聞くと首をかしげながら「ちょっとくせがあるような・・」ということだった。

 

 一度ニュージーランド産の蜂蜜と食べ比べてみたが、風邪薬代わりといった「薬効」という点ではニュージーランド産に軍配が上がるような気がするが、くせのない繊細な味をもつのはやはり安曇野産である。
 この安曇野産蜂蜜と季節の果物で作るデザートは、ここに暮らさなければ食べられない美味しさで、蜂が勢いづくこの時期は、逃げ回りながらも彼らに手を合わせて感謝する日々である。

 そして、つつじの花が散り始め、えごの花が咲き始めると、梅雨入りとなる。この花から何とも言えない良い香りが漂ってくる。多湿な風に運ばれる、奥ゆかしくも凛とした雅な香りを、ハイテクな現在でも、お手元にお届けできないのは残念である。

 えごの花が多く咲くときは雨が多く、あまり咲かないときは空梅雨だ、という話を地元のタクシー運転手の方から聞いたことがあるが、これは実に良く当たる。誠に申し訳ないが気象庁の長期予報より、ずっと確実だ。

 

 その他、自然現象による予報のほうが良く当たるという話は枚挙に暇がない。 その理由は明快で、動植物は種の保存のために様々な行動を起こすわけだが、つまりは生命がかかっている。気象庁がいい加減だとは言わないが、やはり真剣味が違うのは当然といえる。しかし、あの方々には私達には計り知れない別の苦労もあるのだから、そこまで迫るのは筋違いというものだろう。





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