信州、安曇野、穂高、ゲストハウス・ノーサイド、スローライフ、スローフード、食の歳時記 4 月


* 4月 花は桜


 安曇野は4月の上旬から中旬が桜の季節である。もちろんその年の気候によっても異なり、5月の連休あたりまで咲き残っていることもあるが、概ねこの時期が桜の見頃だ。また、この時期は千曲市(旧更埴市)の杏の花も開花の時期を迎え、満開となった杏の木々は、本当に見事だが、人出が多いのが難点である。

 安曇野でも桜は、美術館の庭などあちこちに見ることができるが、やはり雄大な北アルプスと、豊かな清流を滔々とたたえる川を背景に、枝をそよがせる姿や、遠くの山あいを薄桜色の煙がたなびくように木々が連なる風景にこそ、桜本来の自然な美しさをみることができる。

 最近私達は、360度山々を眺めることのできる、とてもひなびた風情のある桜の名所を発見した。残念なことに、そこへは小さな車と、細い道を通ることや、狭い場所でのUターンをものともしない運転技術がないと行かれない。最初に訪れたときは、車で平均台の上を通っているような気分で、今更引き返すこともできず、仕方なく前進した結果たどりついたようなものだった。だからこそ、あまり大勢の人目にふれることなく、荒らされることもなかったのだろう。

 そして桜が咲き始めると、私達は庭にあるタラの木の芽吹きを気にかけ、蕗の薹(ふきのとう)や蓬(よもぎ)摘みに精をだす。私達は、五穀を食べたり、純粋な菜食や健康食を追い求める、といったことはしていないが、現代人に欠けている自然の恵みを、無理のない形で料理に取り入れるよう心掛けている。

 たとえば、蕗の薹は苦く、蓬は青臭いと思う人もあるかもしれない。しかし、食べやすく料理されたものを、少しでも口にしていただければ、きっと安曇野の大地から、元気をもらうことができると思う。冬眠から目覚めた熊は、いきなり餌を探すのではなく、まず山菜類を食べて体内を解毒・浄化するという。山菜類にある独特のアクは、体を浄化する役目があるのだ。山菜には辞典ができるほど種類があるが、料理のレシピは、メモ紙一枚さえ埋め尽くせないほどバリエーションに欠けている。

 いくら山菜が体に良いとはいえ、食べ方が「天ぷら・お浸し・マヨネーズ」のワルツを繰り返されては辟易してしまう。地元の年輩者が「最近の若い者は郷土の料理を食べなくなった」と嘆いているが、私達は「郷土の伝統食」をいろいろ研究した結果、その意味合いについて、土地の人とは少し違った考え方を持つようになった。

 昔は生活も貧しく物流も悪かったので、食べることを楽しみではなく、生きながらえるためと考えてきた。だから、塩漬けや砂糖漬けといった形で、季節の食べ物をできるだけ長く保存することに主眼がおかれてきた。しかし、現代は良くも悪くも食べ物にあふれ、様々な種類の物を食べられるようになった。(写真はタラの芽)

 そうなれば、味わいより保存を優先した食物は、振り向かれなくなるのは当然ともいえるし、何処へ行くにも足を使って歩き、肉体労働に明け暮れた時代に比べれば、乗り物に慣れた現代人にとって、あまりに濃い味のものは、体が受け付けないこともあるだろう。だから私達は、山菜類を無理に保存しようとはせず、本来の風味が生きるよう、様々な形で現代風にアレンジして、季節のときだけ供するようにしている。料理のバリエーションが広がれば昔からの料理も斬新に思える こともあるだろう。

私達が考える「郷土の伝統食」とは、「昔から変わらない料理」ではなく、「その土地に根ざす伝統的食材が、時代とともに生き続けるための料理」である。





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