信州、安曇野、穂高、ゲストハウス・ノーサイド、スローライフ、スローフード、食の歳時記 10 月


* 10月 紅葉はワインのごとく


 10月の声と共に、多くのゲストから「紅葉はいつ頃が一番良いですか?」という難問が私達に寄せられる。そこでこの機会に、難問にお答えしたいと思う。
 「女心と秋の空」という言葉、また、秋はワインが最もおいしく感じられる季節であることから、紅葉の美しさを女性とワインに喩えてみたい。

 10月上旬は、紅、黄、緑がほどよく調和し、それは若さの中に大人びた雰囲気が芽生え始めた女性のようであり、明るい紅色のヌーボーワインである。
 中旬は、まさに紅燃ゆる見事な彩りをなし、それは最も華やかな美しさを誇れる時期の女性で、飲み頃を迎えたバランスの良いブルゴーニュ・ワインであり、下旬は、朽葉色の風景が落ち着いた雰囲気を醸しだし、それは、年を重ね、内面に一層磨きがかかった優美な女性を思わせ、熟成してこそ味わい深くなり、一部のワイン好きを虜にする、ボルドーの赤ワインのようだ。

 つまり、「どれも素晴らしく、あとはそれぞれの好みに依る」というのが正解である。そして、さらにいえば、私達は好天の紅葉にはそれほど感動しない。(贅沢といえばそれまでだが・・・)なぜなら好天の紅葉は、カレンダーや絵はがきそのままの姿であまり面白くないからだ。
 むしろ霧雨に浮かぶしっとりとした風情や、変わりやすい秋空の意のままに、その霧が晴れて鮮やかな紅をみせてくれたときや、たまたま、ごく淡い雪が、紅葉に降り積もったときなど、まさに日本の「さび」を現す、美しい風景が凝縮されているようで、おもわずため息がでてしまう。

 

「お天気が良くないと出かける気がしない」という人もいるが、山の気候は、とても変わりやすく、特に秋は、降るといっては晴れ、晴れるといっては降ることが多い。
 だからどんなお天気でも、そのときにしかない自然の美しさを味わえる人が、真の旅名人であり、予定通りにならなかった旅の方が、案外思い出に残ったりするものだ。旅は日常からの脱出なのだから、いつも好奇心や遊び心を忘れないようにすれば、どんな旅行もきっと楽しいものになるだろう。

 秋の日はつるべ落とし、というように、この時期は5時を過ぎると周囲は暗く、寒くなり、ぱちぱちと暖炉で薪のはぜる音が恋しい季節になる。
 この時期は、庭のあちこちにキノコが顔をのぞかせる。食べられるキノコ、毒キノコ、食べてもおいしくないキノコなどいろいろあるので、図鑑と首っ引きで眉間にしわを寄せながら判定する。それぞれ図鑑によって写真色や形状が違うので、判定は難しい。(写真は庭の栗)

 だから私達は確実に食べられるものしか採らず、ゲストには自分たちで試食した物しか供さない。
 よく、キノコそのものには栄養はなく、繊維質を採るために食べるという話を聞くが、実際にキノコが生えている様子をみると、まさに「山の滋養と恵み」を食べるためなのではないかと思うことがある。

 そして、秋といえば、何といっても果物である。M青果の店頭には果物が所狭しとひしめき合い、りんごだけでも、王林、秋映え、陽光、千秋、紅玉、ジョナゴールドなど、次から次へとめまぐるしく種類が変わる。
梨も、豊水、幸水、サンセーキ、どれも水分が滴るようで、品の良い甘みとともに口一杯に広がる。

 さらに、葡萄の中で忘れてはいけないのがナイヤガラだ。マスカットより一回り小粒の姿だが、独特の甘みと香りはゲストの間でも人気が高く、お土産の要望が多い。しかし、この品種は実落ちが早く、宅急便で取り扱わない品目なのが残念である。

 葡萄といえば、ある年、M青果のM夫人が「巨峰の実がバラバラになったんで何かに使って」と沢山くれたことがあった。完熟した巨峰をふんだんに使って、ケーキ・タルト・シャーベットを作ってみたところ、その贅沢なおいしさが忘れられず、翌年は熟した巨峰を購入してまで作る羽目になってしまった。

 その他、柿や栗、めまぐるしいばかりに多い品種のりんごなど、食べる方が追いつかない。秋の安曇野はお腹も大忙しだ。





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